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青年の額を汗が流れた。室内は常温を保っており、袖の短い古着を着ている青年が発汗を催す外的理由は存在しない。青年は、流れる汗を神経質に何度も拭う。何時かの時限爆弾を目の前にして、赤と青の導線と睨み合っているかのようだ。
そしてその様子を監視するように居る男を、視界の端で捉えていた青年は、ビニール袋へ向かわせた手で空を掴んだ。不自然な所作をみせて男に疑念を抱かせることを恐れ、洋服を掴むはずだったその手でビニール袋を丸める。
青年は、口元に手をもっていき、わざとらしく咳込んでみせる。男の反応みる為だった。だが、男はぴくりとも動かない。精緻に目を配らせた結果、脳は“マネキン”だと処理しようとする。しかし、頭を打つような洗濯機の音に諭されて、男が生きていることを理解するのだった。
そそくさと目の前の洗濯機を起動させれば、人形の間接をぱきぱきと曲げるように足を動かして、青年はコインランドリーを出ていった。
酷く齷齪としていた青年は、コインランドリーを背に、安堵の息を吐く。
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