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そこに男の姿はなく、あっけらかんとしていた。雲散霧消と化した不安が、笑みを漏れさせる。青年はいつもと変わらぬ心持ちでコインランドリー内へ足を踏み入れた。耳を塞ぐ音もない。
周りに目をくれる様子もなく自分の洋服の入った洗濯機へ向かおうとするが、ふいに、あの洗濯機へ目が止まってしまった。
男の使っていた洗濯機の円形の窓に、白い紙のようなものが貼れていた。白い紙を注視してみれば、「故障中」という文字が見えた。何気なく足は引き寄せられて、いつの間にか、眼前に文字を捉えていた。
あんなけたたましい音を発していたんだ。壊れてしまってもおかしくないだろう。
――そぞろに胸がざわつく。
一体何を入れたらあんな音を発するんだ。青年は、白い紙に手を掛けた。
手が震える。警鐘を鳴らすように早まる鼓動が手を震わせている。この紙を剥がすことに身体は嫌悪を示し、拒絶しているのだ。岐路に立った青年は、建設的な、隅に追いやれていた本来の目的を選択する。
こんなことしている場合じゃない。ジーンズのポケットからはみ出ていたビニール袋を引っ張りだす。視線を先に目的の場所へ送らせ、身体を動かそうとする。しかし、前進しようと扇を振るおうとした右腕が、引き止められて、身体は膠着した。
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