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ひんやりと冷たい、五本の指が右腕を引き締める。一体この手はどこから伸びてきて青年の腕を掴んでいるのか。頑なにそっぽを向ける顔が答だった。
腕を掴む手が万力の如く強まっていく。まるで腕と首が繋がっているように青年の喉も締まっていき、掠れた笛のような息を小刻みに吐いている。
血の巡りが悪くなる手は、著しく感覚を失っていく。そして、電気が走ったような刹那的な痛みに腕は襲われた。その数秒後、脈打つような痛みがじんわりと波紋のように広がり始める。悲惨な末路が待っている階段を一歩一歩着実にのぼっている。が、三段近く飛ばす出来事が起きた。腕の骨が握り潰されたのだ。
「あ」と、伸びた録音テープを再生したかのような声が青年の口から発せられると、喉から生暖かいものがせり上がってきた。
吐き出すことを嫌って、口は閉じているものの、赤い吐瀉物がだらだらと口の端々から垂れている。腕の骨を潰された手が皮をねじらせながらぷらぷらと揺れている。しかしその皮も、雑巾を絞られるように容赦なくひきちぎられた。
然すれば、床に落ちた手に添えられるのは、未だ死に気づいていない青年の頭だ――
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