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残虐な想像が走馬灯のように駆け抜けた。天秤にかけられるのは血の気と危機感。下がった勢いで跳ねる血の気と、上がった勢いで頭を打ち付ける危機感。
青年は思案に及ぶまでもなく、手を振り払おうと腕を身体に引き寄せさせた。すると、思いもしないほど簡単に手は解け、引き寄せた勢いで身体はよろめき床に尻を着いてしまう。
視界が上下に激しく揺れていても、手の伸びてきたであろう場所はしっかりと捉えていた。
そこには相も変わらず「故障中」と書かれた紙があるだけだった。
幻覚。便宜に引っ張り出した二文字。裂傷しかけた腕に残る手の形をした痣が、現実を突き付ける。それでも――
幻覚だ。この痣だって、もっと前から、付いていて、気づいていなかっただけだ。最近眠れていなかった。疲労が溜まった今、こんな風に祟ったんだろう。
青年のへつらう姿は、囃し立てたくなるほど愚かしかった。それでも、事も無げに青年は立ち上がり、今度こそ腕で扇を振るい、目的の場所へ直行する。
洋服を洗濯機から取り出すと、逃げるようにコインランドリーを後にした。
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