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奏の通う公立高校は普通徒歩で15分もかからない。だが、8時20分には席に着いていなければならないため、のんびり歩いている暇などなかった。残り時間がたったの五分しかないのだ。
全力疾走しながら奏は考えていた。頭の中ではものすごいスピードでこの付近の道を割り出し、近道を探していた。昔からここに住み、遊び回っていた奏にとってもう、家も同然なのだ。
「よしっ。はげ山をとおればなんとか間に合うな」
そう呟くと、奏は路地を曲がった。そのまま、まっすぐ走り続け住宅街を抜けると、はげ山と呼ばれている丘が見えた。その丘はその名の通りはげているように木がはえていない。全くというわけではないのだが、ほんの少しの草がはえているだけなのだ。
駆け上がるのは問題なさそうなため、奏はそのまま丘を駆け上がる。砂だけの丘のため滑りやすいが、幸いこけなかったためホットした。
頂上に着けばもう学校は目の前だ。
「はぁはぁ。も、もうすぐだぁ」
荒い息を整え、再び走り出そうと奏
は足を踏み出した。
が、その瞬間奏の動きは石になってしまったかのように、かたまった。
奏の視線の先、そこにははげ山では珍しく背の高い草が生い茂っている場所だった。その草に隠れるようにして、それはあった。
血に濡れた、ひとの姿が。
「ひっ!!」
ようやく覚醒した奏はひきつったような声を上げた。当たり前のことだが、こんな光景を見るのは奏にとって人生ではじめての経験なのだ。体中を駆け巡る恐怖に支配されそうになりながらも、目をはなすことはなぜだかできなかった。
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