体剣使い

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だが、護衛がどれだけ危険な任務か、本当の護衛依頼を完遂した者なら、身に染みて理解している筈だ。 護衛対象が居る事で、動きは大きく制限され、自分以外の人間の動向を逐一把握していなければならない負担。いつ襲い来るか分からない敵対者。それに対する備え。 護衛対象が指示に従うならばまだいい。だが、相手は人間だ。そうはいかない。 護衛対象の勝手な行動で「不利な状況からの戦闘開始」に命を落とした者、護衛対象が傷付いた事で依頼反故扱いとなり、ギルドからの除名を余儀無くされるなど、護衛依頼には常にリスクと高い技術が要求される。 それ故にラスは護衛依頼は受諾しないタイプの傭兵で、同時にもしも受諾した場合の料金は高額である。 その代わり、命を懸けての護衛を誓う事と、必要だと言うなら誓約書さえ書いてみせる契約内容を用意しているのだ。 「この依頼において、如何なる理由があろうとも、依頼者、それに関わる者に当方の生死について言及はしない」と。 だが、それ故の高額は案外ネックな問題なのである。 「……まさか城一つ分。などとは言わないでしょう?」 「なんだ、それぐらいなら用意できるってのかい?」 眉を少し上げて、ラスは問う。 ただの冗談で、ただ会話で流せる事だからラスはそう口にしたのだろう。 だが、やはり少女はラスをどうあっても楽しませてしまうらしい。 「首都に邸宅が1つくらいは買える金額が、用意できます」 「……おいおい、そりゃあまたえらい大口だな」 「冗談だと思いますか?」
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