聖墓

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「アオ」 レイスもアオに呼び掛けると、アオは指示されるまでもなく前進した。 複数の足音が障害物のない草原に響き、一歩、また一歩と前進して行く。目指す先とは真逆の凄惨な光景は、どんどんと遠ざかり、やがて見えなくなるまでそう時間は掛からなかった。 あの場所に色んなものを置き去りにして、目指す先に何があるというのか。 レイスはただ考え込み、 ラスはただ黙ったまま、 着実にその歩は進んで行く。 草原を撫でる風の様に、移ろい行く者として、自分もまた場所と人を置き去りに次の目的地へと。 ただ空虚なその感覚に、レイスはぼんやりと前方の背中を追うだけ。 全て失った喪失感。 何の為に生きるのか。 自分を乗せて心地良い揺れを齎しながら進んで行くアオを見て、レイスは首を否定の形に振った。 まだ、死ねない。 この子が死ぬ時までは、生きなきゃ 他者の生を拠り所にする生意は、なんと危ういのか。 景色は広がる草原から、樹々が大地に根を伸ばし岩が点在する荒れ野へと変わっている。サワサワと優しく小さな語り部も、此処ではザワザワと少し五月蠅い葉擦れの音。 少し離れただけで、こんなにも違うの… レイスは先程まで居た筈の村を遠く想う。 想っては進み、 憶っては先に。 「お嬢さん、一つ聞きたいんだが」 それを繰り返し、中天にあった太陽も大地を赤く染める間際の事。 鼻唄や口笛を呑気に吹いていたラスが唐突に口を開いた。 「何ですか」 「昼にも聞いたがな、 その負んぶに抱っこの坊やは何だい?」 そう言って首を仰向けて横目だけで振り返るラスの視線の先には、レイスが飽きもせずずっと抱いているヌケガラがある。 鮮血も時が経てば端から凝り、淀み、乾く。まだまだ赤が多いが、その内淀んだ暗い茶に呑み込まれるのだろう。 「……弟、です」 言葉尻は苦しそうに吐き出され、目尻には涙が滲む。 泣くものか。 この男に弱味を見せるものか。 「へぇ~、そうかい。 そりゃ御愁傷様」 一瞬悼むような視線を感じたのは気のせいだったのだろうか。 ラスの瞳が僅かに眇められて、眉根に寄った皺の意味が、レイスにはまだ理解できなかった。
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