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綺麗、か──…
久方振りの感銘に、目を細めながら、夕焼けの赤が全てを塗り替えて神秘的に染め上げる様を見守った。
少しずつ少しずつ、沈み行く太陽とは逆に伸びていく影。強くなる逆光は徐々にレイス達も呑み込んで行く。
ただ落ちる雫だけがその影から抜き出でて、輝いてまた影へと還って行った。それが涙だと気付いたラスは、見ていない振りを決め込んでただ黙って伸びていく影に目を逸らす。
見てはいけないような気がした。
それが優しさだったのか、それとも不可侵の領域を侵す行為への罪悪感による回避なのか、ラス自身判断が付かぬまま、しばらく自分の跨る馬のタテガミを見つめていた。
赤い夕陽がゆっくりとその時間の経過を知らせ、半分が沈み込む前にレイスはやっと僅かな動きを見せた。
ラスは内心ホッとしていた。何と声を掛けるべきかも分からず、そもそも声を掛けるべきかどうかも判断が付かないのだから、その状況の変化に安堵しない人間などいるだろうか。
「すみません、ボーッとしてしまって……。
行きましょう。
日が、暮れてしまいます」
何処か憂いを含んだ黄昏るその様子は、近付く別れを惜しんでいるようだった。
レイスは背後で燃え続ける夕日を振り返り、一瞬その夕陽を見つめて頷いた。
少しだけ足に力を籠めたのだろう、アオは敏感に感じ取り歩を前進させて、ラスの隣に並ぶ。それと同時にラスも馬の腹を軽く蹴り、レイスと並んで揺られて行く。
「陽が沈んで、夜ノ二も来れば街への門も閉じる。急ぐぞ」
ラスは真っ直ぐ前を見たまま発した。まるで、レイスの顔を視界に入れない事に必死なように。
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