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ラスが少しだけ歩む速度を速めると、レイスもそれに倣う。
蹄鉄も打たれていないアオの蹄が軽快に、長く人を乗せてきたのであろう4頭は少しだけ重く、それぞれの音が混ざり合い乱雑に道行を飾る。
吹く風がレイスの髪を攫い、肌を撫でて行く。岩を掠め、葉を鳴らし、生き物たちを通り過ぎて行く。
嗚呼、風さえも違う…
涙など出ない虚無感の中、レイスは腕の中に眠る肉親を見ていた。
どれだけ見つめても、その瞳は開くことはない。視線を感じる身体も、もう動かない。
今にも動き出すのではないかと錯覚も出来ない程、その姿は血に塗れ、証明するかのようにレイスの身体も汚している。
それは心さえも凍らせる温度で、徐々に、徐々に乾いていく。
祖母を、弟を、村を、皆を。
全てを無くして、何故今自分が息をしているのかただ不思議だと、レイスの感覚は少し麻痺したように悲しみさえも感じはしない。
ただ虚無感が身体を覆い、心を侵し、世界を蝕む。
アオのために、死ぬ訳にはいかない。そう結論付けたからこそ、ラグゼンシアまでの護衛を依頼したのに、ふと空気を感じてこの世界が掠めると途端に全てがどうでも良くなる。この世界さえもどうでも良くて、愛馬さえも共に昇ればいいとさえ思う。
きっと、生きててもしょうがないんだ……今この時、私は死んでる
東の空は暗くなって行く。
そちらへ歩く自分の未来を暗示しているようだと思いながら、隣で馬に跨る傭兵に付いて行く。
死神のように人の命を簡単に狩る男。死神に案内されて向かう先は、一体何処なのか。
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