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そんな事をぼんやりと思い浮かべながら、アオの歩みに身を任せていると明るい丘に辿り着いた。
途中木立を抜けて、茂みに隠れる脇道を通って辿り着いたその場所は、もう陽も空の端に僅かばかり残る程度だと言うのに、視界が暗闇に囚われる事のない場所だった。小高い丘故に平地よりも空に近いからなのか、それともレイスの知り得ない何かなのか、兎にも角にも視界は地面を覆う薄い草の一本一本も、目を凝らせば見えるのだろう程度の視界が保たれている。だが、決して明るくはない。何方かと言えば薄暗い。しかしこの丘以外はもう視界も危ういだろう。
レイスを案内した本人は、丘に登った瞬間早々に馬から降りてさらに上へ行く。
レイスは腕の中の存在に少しだけ悩んで、アオに弟を預けて下馬するとその首をひと撫でしてラスの後に続いた。丘は思いの外広く、幾つもの起伏が連なるようにして続いているようだ。
「町が1つ2つは作れそう…」
周囲を見回して呟くレイスには視線を投げないまま、ラスは呟く。
「名前ぐらいは聞いた事あるんじゃないか?
シクメロース、竜の丘」
「えっ」
よく祖母に聞かされたお伽話や伝承の中に、竜の亡骸が眠る場所と言われる丘が度々登場した。その場所を明確に知る者は居ない上、その亡骸はとうに失われ、探す術もないまま人々の語り部にのみ口伝される伝説と化した土地の名前だ。「シクメロース」その意味は古代の言葉で、平坦な地。
「何でそんな事を言い切れるんですか」
胡乱気に問うレイスの空気にほくそ笑んで、ラスはそのまま歩き続ける。レイスも疑問を持ったまま後に続く。
そして、一つの起伏を登り切った。
「すごい…」
もう陽は完全に落ち、空には薄暗い闇が広がりほんのりと星の光が瞬いている。地上を照らす程の光源はない。だと言うのに、その全貌を見渡す事ができるのは何故なのか、ここがシクメロースだと何故言い切れるのか全ての疑問をぶつけたい衝動に駆られながら、レイスは落ち着けと自分に言い聞かせる。
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