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「何で俺がそう言い切るのかって不思議な顔だな、お嬢さん」
連なる丘の中でも1番小高くなっているのだろうその場所からは、正に全貌が見渡せる。
その景色の中には木の一本も生えてはいない。ただただ、高さの同じ短い草が一部の乱れもなく地面を覆っているのみだ。
「……何故、この場所がシクメロースだなんて言い切るんですか。
貴方のただの推測ですか?
それとも私が知らないだけで、人はこの場所がシクメロースであるという認識がまま広まっているんですか?」
レイスが訝し気にラスに問うが、ラスは飄々としたものだ。
「よく回る口だなー。
お嬢さんも気付いたろう?
この場所が妙に一定な事に」
何とも曖昧な言い回しだ。
この場所の、何を指すと言うのか。ラスの前述は気にしないまま、レイスは気付いた事を口にする。
「確かに、同じ種類の草以外に植物も、岩もないですけど…」
「それだけじゃないってこった。
ここにゃあ光源なんかない。それでも視界には困らない、妙な薄暗さ。動物も、虫一匹寄り付かない。植物もこの常緑の草以外には見当たらないし、風も吹かないときたもんだ」
確かに、言われてみれば風も、虫の音もない。全てが静寂だ。
だが、それはあり得ない。
「それは、たまたまじゃ…」
草を増やす為には虫がいる。生い茂る為には土の中のミミズがいる。それらが生活して行く為には、他の生命の存在が必要不可欠だ。虫が居れば、それを獲る鳥が居る。鳥が生活する為には、樹が要る。ひとつの生命があれば、それに付随するいくつもの生命が存在するのが当たり前だ。
生き物はより良い環境を求めて、新天地を探す。それこそ、ここには危険な獣の気配もない。丘に入ったアオや馬達が落ち着いているのを見ればよくわかる。そんな場所に、何故他の生物が居ないだなどと考えられるのか。
あり得ない。
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