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腰に両手を充てて、そう口にするラスは得意気だ。
「……でも、それじゃあ仮説にもならない。ただの空説よ」
確かにその言は正しいが、レイスはもう既に確信めいたものを感じていた。認めたくない理性が反発するように、口を動かす。
だって、あまりにも伝承に伝わる竜に…似てる。それにこの丘が平坦に見えないのは、竜自身の身体のせいってことでしょ…。なら、竜の身体が横たわる前は?
「そうかな?
薄々気付いてるように見えるけどな。
平坦な地。それが何を表すのか人は知らない。
この場所はある意味ではこれ以上ないってぇぐらいに平坦だ。」
内心を見抜くようなラスの発言は、不安定な今のレイスを混乱させるには十分だった。
「……空間が、ですか」
絞り出すようなレイスの声に、ラスの口の端は上がる。
「ご名答~。
この「場所」そのものが、平坦なのさ」
レイスは、反論も出来ぬままその言を聞いていた。だが、それなら何故今この場所に来たのか。
「まさか、ここに弟を埋めろだなんて言いませんよね……?」
レイスは若干引き攣った口元を隠しもしないまま、ラスを凝視する。
「ここは墓だ。ピッタリだろ?」
確かに、墓だ。
「竜には、ね。
竜の死骸の上に、弟を埋めろって言うんですか?
悪い冗談、いえ、冗談にさえならない。妄言だわっ」
語気荒くそう言い放つレイスを見て、ラスは何が問題なんだ?とでも言うように首を傾げる。
「まぁ落ち着きなさいって。
考えてもみな、この場所には獣は愚か、人間だって寄り付かない。ここに来るまで細い道を下っただろ?一本道に見えて、あれは迷路になっててな。そうそう辿り着けやしない。
獣に掘り返される事もなきゃ、人間に踏み荒らされる事もない。静かに眠らせてやりたいんだろ?ご要望の通り、虫の声一つしやしない」
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