聖墓

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燃える炎の中、絶叫が響く。 『お姉ちゃーーーーんッッ』 煤だらけで殆ど視界は見えない。にも関わらず、鮮烈に出現した飛沫は時が止まったように視界に留まった。 そして、ゆっくり。 ゆっくりと、此方に伸ばされた手が地面に吸い込まれて行く。 掴み切れぬまま、その手は、その小さな身体は、力なく、絶命した。 「───…い」 あの時、あの時、もう少し早く気付いていれば。 もし、もしも…… 奴らの気を逸らす事ができたなら。 「───お……い」 もしも、奴らを。 ───殺せたならば。 「おいって。 帰ってこーい」 先程からの呼び掛けに気付いたレイスは、ハッと目の前に映る顔に驚く。 「えっ」 「えっじゃね~よ。 全く物騒なツラしやがって みすみす仇を見逃す甘ちゃんが、人を煮て美味しくいただいちまいそうな人相してたぞ」 ……もっと言いようがないの。 それでは人喰いババアだと、昔祖母から聞かされた話の中に出てくる狂気じみた女を思い浮かべる。 ラスはニヤリと笑って、レイスの方へと乗り出していた身を馬上に安定させる。そして徐に前方を指差した。 「ほら、あれがパーナマール《堅牢な壁》だ。」 ラスの指差す遥か先、掌程にも見えない大きさの石造りの壁が見えた。 だが、その景観よりもレイスには気になる事があった。遠目からでも堅牢そうな石壁の周囲には、侵入者の侵攻を拒むのだろう深い堀がしっかりと作られている。 入口らしきものは正面から見た限りただ一つ。鎖で上がる形式の橋、その跳ね橋が─── 「跳ね橋が、上がりそうなんですけど」
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