夜の世界

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トントンと、木製の扉がノックされる、音が響き。 「ユーリ、来たよ、入っていい?」 私の名前を呼びながら、トントンとノックの音が響く。 「開いてるから勝手に入ってきらたらいでしょう」 椅子に腰掛けながら答える。目は見えなくても、なんとなくの感覚で家具の配置程度なら覚えてる。 「おはよー、ユーリ、はい、今日はクロワッサン、一緒に食べよ」 町でパン屋を営むおじさんの、見習いの少年が今日もここに来る。私が町でなんて言われてるかしらないわけじゃないだろうに。物好きな少年だ。 「施しなんて受けないもの、ここには来るなと言ってるで………」 キュューーーとお腹の音が鳴る。コホンと咳払いして、再度。 「来ないでと言ってるでしょう」 「ほっぺ、真っ赤にして言われても説得力ないよ、ユーリ、ほら」 クロワッサンという物を見たことのないけれど、香る焼きたてパンはとても美味しそうだ。 「…………いただきます」 少年が、パンを差し出す、これ以上、失態を犯す前にかじりついて、噛みきり租借する。 「どう美味しい?」 きっと、少年はニコニコと笑っているのだろう。このクロワッサンは少年が自分で焼いたものだからだ。見習いの彼はまだ店頭に並べられる技量がない。その変わりに私の朝食作りと修行を兼任することになったらしい。それならパンだけ置いて帰ればいいのにいつも少年は居座る。 「普通、パサパサしてる。もっと、もっちりしていたほうがいい」 少年、以外の作ったパンなんて食べたことなんてなかったけれども、これは素直な感想。
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