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「……ぅッ」
泣き疲れていつの間にか眠ってしまったユーリはハッと思い出し、扉へと駆け寄る…
しかし、
あんなにも、術で固く閉ざされていた扉が… ガチャリと呆気なく開く。それが何を意味するのか、わからないユーリではない。
扉を開けたユーリは、身を投げ出すように部屋を飛び出す。 目指す先はーー…。
「ハァハ…ァ…ッ!」
長く長く、果てしなく続く回廊を… ユーリは走る。
「ハ…ァ…ッ! ユ、リウ…スッ!!」
ーーバン!
ギィー…
神殿の重く年期の入った大きな門を力いっぱい引く…
開けたその先に広がるのは、
川が氾濫し、沈んだ街。そして、荒れ狂う波は丘に避難した王都の人々まで呑み込もうとすぐそこまで迫っていた。
そして、
その嵐の中心には怒り狂う精霊たちと… ユリウスを取り込んだユグドラシルが… 笑っていた。
『ふ、ふふ… あははははっ!!さぁ逃げ惑え!もう邪魔する者は誰もいない!!ユリウスもいなくなった今、僕を止められる者はいない。ふ、ふふっ。くすくすくす… まったく愉快だよ。
さて、もう十分だろう?精霊達よ、今こそ貪欲でズル賢い人間共を滅ぼす時…』
甘く甘く精霊達に囁くように楽しげに笑うユグドラシル。…しかし、その面影は止めようと最後まで戦ったけども破れてしまいユグドラシルに取り込まれてしまった愛しいユリウスの… 面影が微かにあった。
「ユリウス…ッ!」
その突きつけられた悲しい現実にユーリは立ち尽くしてしまう。けれど、逃げ惑い悲鳴を上げる彼らの声に、我に還ると静かに首を振った。
「こんなこと… 誰も望んでいない」
意を決すると、
ユーリは今までずっと解放することなかった力を… 解放した。
それは闇の精霊王の元で育てられるうちに自然と付いた巨大なる力。けれども、まだ幼かったユーリは知らず知らず無意識のうちに自らその力を抑え、封印していた。幼過ぎた小さな体に負担が掛からぬように。
そして、解放されたその力の波動がぶわりとユーリを中心に広がっていく…
その絶大なる力はやがて荒れ狂う精霊たちをも制止させるほどに、かつて感じたこともないその巨大なる力は… 畏怖以外の何ものでもなかった。
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