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高校の入学式が昼過ぎに終わった。緊張と期待と、先の見えない未来に不安を抱えたまま、宇津木 蒼こと僕はこれから一年間お世話になる教室に、クラスで移動した。
担任の先生は、三十路行くか行かないかの女性だった。ちょっとお洒落をしたら、凄く美人に見えるんじゃないかと、妄想の世界に浸っていると、ふいに背中を軽くつつかれた。
『…おい、お前』
『…僕? 』
視線を後ろに向けると、如何にも中学時代に悪をしていたような若干茶髪の子が、にまにまと笑いながら僕の目を見ていた。
『めっちゃ美人だよな。担任、ありゃぜってー彼氏持ちだよ』
『…えっと、及川…君で良かった? 』
相手に膜を張った言い方に気が障ったのか、及川は嫌そうに顔を歪めて答えた。
『君はいらねぇ、龍也いいよ。んで、悪は中学で卒業した。高校からは真面目貫き通すつもりだからよ』
それはどうなんだろうと一瞬心の中で思う自分と、案外悪い人じゃないと思う自分に二分された。
くすくす笑う僕達に、担任の美人がこちらに気が付いて注意をする。
「宇津木君、及川君。入学早々から気が緩んでいない? きちんと話しを聞いてください」
中学までは注意を受けた奴を含めて、クラスで笑いが生まれる所だが、ここは高校。
見ず知らずの他人も居る中で、大口開けて笑う人はおろか、クラスメートはくすりとも笑わない。
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