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中学の修学旅行直前には、急性盲腸になり参加出来無かったし、高校三年の夏、野球の県大会で優勝を決めたが、あくる日車に轢かれて足を骨折して、甲子園にはつゆぞ出場出来なかった。
しがない中小工場にしか就職出来なかったし、25年も女とは無縁だった。
25歳の時、里美と知り合い付き合えたことが唯一の幸運だったと云えるが、5年付き合ってもプロポーズも出来ない甲斐性なしなのだ。
俺は里美の手を握り、瞳を見つめて、
「俺には貯金が無い。有るのは車のローンだけだ。給料だって安いし、里美には苦労を掛けて来たけど、もうお金の心配は要らなくなったよ一生。だから俺と一緒になって欲しい」
里美は俺に真剣な、潤んだ瞳で真っ直ぐに見つめながら答えた。
「バカねぇ。お金なんて関係ないわよ。栄一の仕事だって立派よぉ……そんなこと気にしてたのぉ」
里美は大きな瞳からボロボロと涙を流していた。俺はいたたまれなくなり、里美を抱きしめた。腕の中で里美はしゃくっている。そんな里美を見て俺は心に誓う。里美を傷つけない。必ず幸せにすると。
そう心に誓った刹那、俺ははっとして里美を胸から引き離し、
「へ、返事を聞いてないけど」と聞いた。すると里美が笑顔で、
「バカねぇ、イエスよ。OKに決まってるじゃない」
B級恋愛映画のようなやり取りに気恥ずかしくも思ったが、胸は高鳴り、押さえ切れない衝動が沸き起こり、里美に口付けをしてそのまま愛し合った。
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