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などと、云う輩がいる。また、幸福と不幸は一定量でやってくると云う輩もいる。余り信じたくはないが、気を付けるにこしたことはないだろう。
大金が当たったなどとは一言も話してないので、誰かに妬まれる心配もない。親族には株で大儲けしたとだけ伝えてある。だから怪しい新興宗教などに目を付けられることも無いのだ。
――俺は以前にも増して細心の注意を払いながら、生活して行こうと心に誓った。
*
結婚式を翌日に控えて、俺と里美は最終打ち合わせの為に結婚式を執り行う会社に出向いた。会社と云っても、教会に隣接する展示場の中にあるのだが。
打ち合わせも滞りなく終わり、出口に差し掛かった時、出入り口の横の喫茶店で、黒いスーツの男が珈琲を啜っているのを見つけた。
あの野郎!
一瞬怒りが込み上げるが、俺のことなど露知らずに珈琲を啜る男の横顔を見て、怒りを静めた。
――考えてみたら、単なる被害妄想なのである。
先に進む里美に呼ばれて、俺は明日式が行われる教会を後にするのだった。
買ったばかりのレクサスのハンドルを握りながら、ふと思う。
「なあベントス寄って行っていいか?」
「何? 独身最後の日を本当に1人で過ごすつもりなの?」
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