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第四話
安田家からは、安田 鳴海と安田 亮太の二人のみの参加であった。大友家と同じように旦那は今日仕事らしい。兄弟はいなく一人っ子との事であった。
鳴海の息子である亮太と耕平は初対面でこそ、どちらも照れくさそうであったが、そこは子供特有の柔軟さであっさり解消された。
町内会長の家に向かう途中も、まるでお互い知り合いだったかのように仲良さ気に話している。
耕平と並んで歩く安田 亮太は頭一つ分ぐらい息子より背が高い。体つきも同い年にしてはがっしりしている。
鳴海の話によると年少の頃から柔道を続けているらしい。幸子は成程と一人納得した。
後方の息子達と前を歩く母達に挟まれる形で菜々子は歩いていた。ふと表情を伺うと少し退屈そうである。
「でも良いわよね、耕平君は優しそうなお姉ちゃんがいて――」
安田 鳴海は菜々子の方へ振り返りそう言った。気を使ったのかもしれない。
「いや、そんな私なんて」
菜々子は両手を振って遠慮がちに言った。いつもとは流石に口調が違う。耕平より寧ろ菜々子の方が緊張していたのかもしれない。
「うちは一人っ子だから、どうしても我侭に育っちゃって」
正面に顔を戻し、鳴海の両眉が若干下がった。
「うちの弟だって、相当な我侭ですよぉ。この間もおやつの大きさが違うって喚き散らしてたんだから」
「だってあれは、絶対にお姉ちゃんの方が大きかったもん!」
耕平が反論した。幸子は気恥かしさからか頬が熱を帯びるのを感じた。
「やっぱり姉弟がいると楽しそうで良いわよね」
鳴海が口元に指を添えくすりと笑った。
幸子も口元を緩めて返す。
後ろでは何時の間にか耕平と亮太の間に菜々子も混じっていた。先ほどの言い合いが切っ掛けになったのだろう。
目的の町内会長が住む邸宅は、鳴海に教えて貰うまでもなく判別が付いた。
幸子や鳴海が越して来た住まいは所謂建売住宅と言うタイプだ。彼女達が越して来た家に限らず近隣に並び立つ家々のデザインも、まるで何かで見た六つ子の兄弟の如く似通った作りとなっている。
一方招待された矢場 位間知の邸宅は外観からしてソレとは違うことが一目瞭然であった。
煉瓦を模した門柱に、ゆったりとした駐車スペース。高級感のある欧風な作り。ブラウンとホワイトのコントラストが上手く調和されシックな雰囲気を醸し出している。
折角越して来たばかりだというのに、幸子は思わず嘆息を付いてしまった。何をしている人かは判らないが、収入の差をまざまざと見せつけられてしまったような思いであった。
「やあ、いらっしゃい。待ってたんだよ」
鳴海が門柱のインターフォンを押そうとした所、見計らったかのように木目調の玄関戸が開いた。中から姿を現したのは件の矢場 位間知その人である。
「さぁ。他の皆さんはもう庭に集まってますから、どうぞこちらに」
挨拶も程々に、町内会長は大友と安田の一家を庭に招いた。案内された先で思わずわあ――と幸子は感嘆の声を上げてしまう。
「小さな庭で申し訳ないですが――」
その言葉は幸子には嫌味にしか聞こえなかった。所々に手入れの行き届いた樹木が植えられ、広々としたソレは庭というよりはちょっとした庭園であった。
「さぁどうぞ、どうぞ」
会長に促されふた組みの家族は、庭園で準備されていた席近くに移動した。
見回すと、自分たち以外にも結構な数の人が集まっている。
「今回は大友さん一家と安田さん一家も合わせて四組の家族が越してこられたんですよ」
朗らかな笑みを浮かべながら町内会長が、幸子と鳴海に告げる。
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