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第八話
朝から聞かされた会長の声のおかげか、すっかり目覚めてしまった幸子は朝食の準備を行っていた。
だが時折ボーッと物思いにふけったりと手際はかなり悪くなってしまう。
そうこうしている内に時計をみやると、時刻は午前7時――。
もうそろそろ皆を起こさないといけないな、と幸子は二階に向かって声を掛けた。
今日は夫の勇も久しぶりの通常出勤だ。朝食も取っ手いくだろう。
食卓の上にサラダを盛ったボウルと四人分のベーコンエッグを並べていく。
主食は夫と息子はご飯派、菜々子と幸子はパン派だ。男女で見事に好みが分かれている。
「お母さんおはよう」
先ず顔を出したのは娘の菜々子であった。寝起きの為か短パンにTシャツという簡素な格好をしている。
「おはよう。皆もそろそろ起きてくると思うから早めに支度済ませてしまってね」
幸子の言葉に、は~い、と返し瞼を擦りながら洗面所に向かう菜々子。
「お母さんおはよ!」
続けて元気一杯に息子の耕平が姿を現した。水色のパジャマ姿だ。
「おはよう耕平――」
「あ~お腹へったぁ~」
幸子が言い切る前に耕平が声を上げ席に座る。
「こら。先に支度しちゃわないと駄目でしょ? 顔を洗って歯磨きすましてきてね」
え~、と言って両足をばたつかせる耕平。
「え~、じゃないでしょ。ほら早く」
幸子に促され耕平が、は~い、と返し立ち上がる。
すると大きな欠伸を見せつけながら夫の勇もリビングにやってきた。出社時間に余裕があるせいか、黒と白の縞柄の寝巻き姿のままどこかのんびりした様子だ。
「あ! お父さんおはよ!」
耕平が嬉しそうに勇に近寄る。
「お~耕平おはよう。朝から元気だなぁ」
そう言って頭を一撫でした後、幸子をみやり、おはよ、と一言だけ発した。
最近の勇は妙に素っ気ないなと幸子は思う。
勇が席に付くと菜々子の声が洗面所から響く。
「耕平、空いたよ~。早く顔洗っちゃいなよ」
姉の声掛けに、は~い、と応え耕平も洗面所に向かう。
「あなたも顔ぐらい洗ったら?」
「あぁ、そうだな」
にべもなく返事し、勇は手に持っていた雑誌に眼をやった。
いつもなら朝刊に手を伸ばしている所だが越してきたばかりでまだ頼んではいない。
「あ!? いけない!」
時計をみやり慌てたように声を漏らす幸子。今日は燃えるゴミの日。時刻は7時20分を指している。早く出さなければ間に合わない。
「ねぇ貴方。ちょっとゴミだし手伝ってよ。結構量が多いのよ」
「あぁ顔を洗ったらな」
そう言って勇が席を立った。口ではそう言っているが手伝う気などさらさら無いのだろう。夫はいつも家事には非協力的だ。
仕方がないので幸子は両手にゴミ袋四つを抱え玄関を出た。ゴミステーションまでそこまで離れてはいないのを昨日確認済みである。
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