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最初の2日は眠れなかった。
死んだ広志が戻ってきた。
奏雨(そう)が話してた事は本当だったんだ。
記憶が大半失くなっていたが私が知っている広志だ。
時が経つと段々認識が変わってきた。
いきなり親しく接する事は出来なかった。こっちとしては夫婦だが、向こうとしては他人。
二人で出掛けた時、冬でもなく手袋もしてない夏に手を繋ぐことが出来ない。
じゃあ腕を組めばいい、と言った広志でもない。
腕を組むでもなく手を繋ぐでもない、広志の手首に近い部分をただ握っていた。
話すことは専ら自分たちが歩んできた道について。
「ここにいつも来てたんだよ。」
付き合っている頃にいつも来てた東急ハンズ。商品はあの頃と大分代わっているがズラッと並んだ感じは変わってない。
「そうなんだ。」
大事な部分で何かが欠けていた。
広志ならしないであろうそっけない返事。
奏雨が言ってた「悲しみが理解出来ない広志」
他人の悲しみが理解出来ない事は思いやりに欠ける事になる。
今、私が記憶のない広志を前にしている悲しみも理解出来ないからだ。
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