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アルバイトを終えると寒そうに待っている広志がいた。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。待ってたの。」
会えて嬉しい、そう言葉にしなくても伝わるような笑顔と優しい眼差しを向ける。
私たちは出会ってから、広志の優しさで二人の関係が持っているようなものだ。
いつだって私が感情的になり、広志がそれを受け止める。
何回ぶつけても広志は許してくれるが、たまにそれが怖くなる時がある。
いつ限界がくるのか。
私が最後に一滴、広志のコップの表面張力を破ってしまうのではないかと思ってしまう。
その度に優しさにもたれかかるのはいつも最後にしようと思っている。
「何で待ってたの?」
広志が歩きだす方向に従って歩きだす。
「多恵、バイト終わったでしょ?買い物行こうよ。」
「急に?いいけど、ダメだったらどうしたの?」
「帰ったよ。ダメならしょうがないし。」
「連絡すればいいじゃん。」
「バイトしてるんだから返信無理でしょ。」
広志は手袋をしている。
手を繋ぐときに感覚がなく、寂しい気分になるからと、一緒にいるときは冬でも手袋はして欲しくなかったが、前にそれを伝えたら「じゃあ腕を組めばいい。」と代替案にならないようなことを言ってきた。
でも今日はそれに従って手を繋がずに腕を組んで歩く。
とりとめもないアルバイト先のこと等を話しながらいつもの東急ハンズに向かう。
ここなら大抵の生活用品は揃うし、見ながら話すだけで時間が過ぎて、尚且つお金を使わないですむ。
広志と私はどちらも各々の高校を卒業してからフリーターをやっていて、そんなにお金があるわけでもない.
コンビニでアルバイトをしてる私とパン屋でアルバイトをしてる広志。
広志は少しずつ司法書士の資格を取るために勉強している。
いつまでもフリーターでいる訳にはいかない、と言ってくれた。
私たちは二人で歩む将来を考えているからだ。
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