雨 ~ 蝕甚

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(2) 温かくなる兆しが全く見られない一月下旬。 もうすぐ付き合って2年になる。いつから多恵との結婚を意識し始めただろう。 もしかしたら出会ってすぐかもしれない。素直に感情をぶつけるところと屈託ない笑顔、それと多恵の香り。それらだけで十分だった気がする。 すぐに付き合えた訳じゃなかったがあれから2年。 正直な多恵だから、どうしようもなく正直ですぐ泣きそうになってしまう多恵だから、自分も心を開き光に向かって歩き出せた。 以前多恵の使っている香水を知りたい、と言った事がある。 なぜ?と聞かれてその香りが好きだから、と言うと「気持ち悪いから教えない。」と一蹴されてしまった。 それ以来なんとなく聞くことが出来ずにいる。 同じ匂いがする人と街ですれ違ったこともなく、その話題は自然消滅した。 記念日に一度香水をプレゼントしようとも考えたこともあったが、自ら好きな匂いを消したくない上に、多恵が気に入らずに香水を使わないのもショックだと思い却下した。 今度の記念日には何をプレゼントしよう。 指輪 そのプレゼントも考えたがなかなか恥ずかしくてサイズを聞くことも出来ないし、2年付き合っているとなるとプレゼントのレパートリーも少なくなる。 しばらく頭を捻ってやっとなんとか一つ、考えた。
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