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ふと気が付くと隣のベンチに誰かが座った。
「大変そうですね。」
傍らに白い傘を置きながら声を掛けてくる。
話しかけてきた男は広志が持つ雰囲気とは違うものを持っていた。
人懐っこくなく、一人でいることもいとわない感じ。
今の私と似ているかもしれない。
大変そう。
男はそう言ってきた。
宏之の事を知っている人?
見た目からして宏之の同級生のお父さん、という訳でもなさそうだ。
お兄さんかもしれない。
でもお兄さんが宏之の事を知っていて、しかも私の事を知っている事があるだろうか。
「えぇ、まぁ。あの、どちら…?」
「初めまして、になります。ソウと言います。宏之くんと広志さんの事で悩んでるみたいだったんで。」
「広志のお知り合いなんですか。」
「いえ、会ったことないんですよ。」
そこで初めて笑顔を見せる。
その笑顔とは反対に、こっちは不安になる。
「あなたの全てを知っています。宏之のくんの事も知ってるし、広志さんも知っています。調べたわけじゃなく、あなたの記憶と同じように知っています。」
ソウと名乗るその男はそれから広志と私のことについて話し始めた。
思い出話を話しながら時々笑うソウはまるでそこにいたようだ。
何故知っているのか、という疑問は沸かなかった。
二人しか絶対知らないことを知っているソウは広志と重なり得た。
話しが途切れてからしばらくの沈黙の後ソウはさっきとは違う空気を醸し出す。
「今日は多恵さんに自分の運命を自分で決めて欲しくて僕はここに来たんですよ。今から言う二つの選択肢をどちらか必ず選んで下さい。一週間。考える時間があります。選ぶとそれは必ず起こります。」
「まず
『宏之くんとの記憶をなくし離ればなれに暮らす。』
これを選んだ場合、宏之くんのあなたにまつわる記憶もなくなって誰か別の人の子供として生活します。
もしくは
『悲しみを理解出来ない不完全な広志さんを戻す。』
どちらかです。」
(2)
「広志を戻してくれるの?」
僕が選択肢を与えた瞬間、彼女は涙を流し始めた。
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