勇者、誕生

12/62
前へ
/84ページ
次へ
 「勇者を攫ってくるのだ」  魔王の言葉にエビルプリーストもダークフェアリーも首を傾げた。  「始末するのではないのですか?」  「攫って来いと余は言ったぞ。その後の処遇はその時に決める」  ――主である魔王になにか考えがあるのだろう。そう思ったエビルプリーストは命令を承諾する返答をする。  「分かりました。アーカイムはレヴィアタン殿の担当区域。故にレヴィアタン殿に話を付け、任務を任せるとします」  エビルプリーストの言葉に、魔王は満足気に頷く。  「うむ、任せたぞ」  魔王の間を出るとエビルプリーストを待っていたのか、1人の人物が声を掛けてきた。  「どうでしたかな? 魔王様のご様子は…エビルプリースト翁」  威風堂々という言葉が似合う武人であるこの人物こそ、魔王直属の精鋭“七魔人”が1人『レヴィアタン』その人だった。  エビルプリーストは丁度良いと魔王の勅命を告げると、レヴィアタンはニヤリと笑う。  「お任せ下され。直ぐにでも、勇者を攫って参りましょう。ついでにアーカイムも滅ぼしても構いませんね?」  「大事の前の小事じゃ、構うまい」  エビルプリーストの了承をえたレヴィアタンは残忍な笑みを表面に映し出す。  「では、早急に対応致しましょう。吉報をお待ちくだされ」  そう言って去っていくレヴィアタンを見送っていると、エビルプリーストの後方から、甲高い声が響き渡った。  「ダメーーーー!!!」  エビルプリーストとレヴィアタンが同時に声のした方を向く。先程の声の主はエビルプリーストの使い魔であるダークフェアリーからだった。  「ダメだよぅ! ご主人様、魔王様は勇者を攫って来いとしか言ってないよ。勇者がいる国を滅ぼせとは言ってないんだからぁ、勝手なことはしない方がよろしいかと……」
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加