尾張の男

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「俺の兄の嫁は狐なのさ!」 最近、無理やり家に養子に来た義兄の実隆が言っていた。 遺恨あるとはいえ、お鍋は陽気な義兄が嫌いではない。 実隆もお鍋も父の子ではない、互いに養子どうし。 後継者のいない養父・小倉三河守実光は一揆勢に殺され、そこに実隆が他家から養子としてやってきた。 この小倉家には、親族なら幾らでもいる。養子は一族から迎えるべきである。だから、反対する者ばかりだった。 それを、無理無理、乗っ取り同然に養子に入ってしまったのだから。 お鍋は彼を、恐ろしい人なのかもしれないと思って、怯えていた。だが、取り越し苦労だった。五つ程年長の義兄は陽気でいい人だ。 十四歳のお鍋は、隣を行く同年の於巳(おみい)に訊く。 「兄上は昔からあんな方なの?」 於巳は義兄の実隆が、生家から連れてきた女童だ。 同い年ということもあって、すぐに親しくなってしまうと、実隆は気前よく於巳をお鍋の侍女にと譲ってくれた。 「はい。御三男ということもあってか、のびのびとしていらっしゃいます」 「そう、でも、ご自分の甥御を狐の子だと仰有るのは。ねえ?」 実隆は、まだ幼い甥を狐の子だと言った。
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