尾張の男

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「だって、生まれてすぐ祝いに駆けつけたら、髪も歯も生えていて、座って何か喋っていた。這うことなく、いきなり立って歩いたっていうし。これやどう考えたって狐の子だろう。それに、目の動きと髪の生え方。あれは尋常じゃない。そう、まさに狐の頭だ。あの子が狐とすれば、我が家には真っ当な普通の人間しかいないから、狐は兄嫁の家の血統ということになる」 実隆はどこまで本気なのか、お鍋に真顔で言ったものだ。 「狐の子なんて!」 反論すると、 「安倍晴明だって、母は狐ではないか。それに、ここは近江だぞ。近江には半人半畜生は珍しくない」 そんな実隆の言葉に、お鍋は首を傾げた。 「なんだ、知らんのか?犬上郡には犬の子がいた。子孫には有名な者もいるぞ。昔、妙音院殿という大臣で琵琶の名手がおられたが、その頃の名工に筋若なる者がいた。本名は犬須地とて、その犬上の、人間と犬との子の末裔だそうだよ」 随分不思議な話を聞くものだ。近所だが、聞いたこともない。 「どうしてそんなことをご存知なのですか?」 訊くと、 「何だったか、楽書にもある」 と、実隆は教えてくれた。
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