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よくよく聞いてみれば、それは二条天皇の御代(平安時代末期)頃に書かれたらしい『胡琴教録』だという。
実隆は一度読んだことがあったらしいのだが。
「おかしいな、小倉の蔵にはないようだ。実家で見たのかな?」
探しても、実隆やお鍋が暮らす小倉家の佐久良城からは見つからなかった。
そもそも、楽書の類は門外不出なことが多く、小倉家、実隆の実家の蒲生家、何れも好学な教養高い家とはいえ、持っているとしたら、不思議なことではある。
だが、近年、都は乱れに乱れ、将軍さえも都にいられず逃げ出しているという有り様。公家や楽家の多くも、地方に蔵書と共に散っている。
中でも、都から近いこの近江は最高の疎開先で、将軍も公家も皆、続々とやって来ていた。
現将軍・足利義輝も、長年近江に潜んでいたのだ。都に帰ったのは、永禄元年(1558)。つい数ヶ月前に過ぎない。
そうした事情から、楽家によって楽書がもたらされたのかもしれない。
しかし、『胡琴教録』は小倉家にも蒲生家にもなかった。
好奇心旺盛なお鍋はどうしても見てみたくなって、
「もう!兄上!いったい何処でご覧になったのですか?」
と、駄々をこねた。
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