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パンドラの箱を開けてしまった。
人には誰しも知られたくないことがある。
それが肉親であろうと、守りたい秘密が。
あの時の佳乃は下手なホラーよりもおぞましかった。
陳腐な表現だけど殺されるかと思った。
当の本人は私の心情なんていざ知らず、「んーっ気持ちー!」と猫のように日向ぼっこを純粋に楽しんでいる――かのように思えば。
「まゆり」
不意に真面目な声で私の名前を呼ぶ。
心臓が一際大きく波打った。
「私ね、あの時見られたのがまゆりで良かったと思ってるよ」
他の奴等だったらこうはいかなかったよ、と付け足して笑う佳乃に私はどうしようもない嫌悪を腹に抱えた。
それって私のような無権力者なら口封じも容易だって見下してるんでしょ。
ふざけんな。
好きでこんなポジションにいるわけじゃない。
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い「まゆり」
だいっきらいだよ。
鈴宮佳乃なんか。
「“三人”だけの秘密、ずっと大切にしようね……」
茹だるような熱さが私の思考をも溶かすように首が勝手に上下してた。
向かいからやってくる生温い風が佳乃の反射で金色に輝く髪を小さく揺らした。
その光景が神秘的のように思えて目を逸らせなかった。
「私達、友達だもんね」
友達なんかじゃない。
でも頷いておかなければこの女に潰されそうで、逆らえなかった。
おかしな話。
弱味を握っているのは私なのに、脅し材料として使えないなんて。
私はあの日、この場所で知ってしまった。
――――佳乃の恋愛対象の相手を。
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