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薔薇の鞭を受けながら、眼を閉じて、花びらを頬張ると、不思議な光景が浮かびました。
“ガラスの蜘蛛に捕食される君はさしずめ薔薇の蝶さ”
透き通った蜘蛛はプリズムの光を放ち、薔薇の花でできた蝶を頭からムシャムシャと食べてゆくのです。
“そいつは君の翅だけ
残してすべて平らげて
しまうんだ”
確かに、薔薇の翅だけがソファの上に横たわっています。
“君は飛ぶんだ”
飛べるでしょうか?
“飛べるよ”
信じて羽ばたけば、薔薇の翅は浮き上がりました。その羽ばたき一つに、薔薇の花弁が数十枚、舞い落ちます。
“花びらが尽きたら、
死んでしまうよ”
儚いものですね。
“君はこの有限の中、
どこへ飛ぶ?”
できたら、あなたの元へ。
“それはいい”
でしょう?
“だけど届かないよ”
そうかしら?
“そうとも。
そうに決まっている”
彼の声が少年のものではないのなら、きっと私の未来の恋人の声なのでしょう。未来の恋人は、待ちくたびれて、少し疑心暗鬼になっているようです。これ以上、待たせる訳にはいきません。
レースのカーテンをくぐり抜けた私は窓から外へ出て、薔薇を撒き散らしながら声のする方角へ飛んでゆきます。お屋敷の庭にワインより深い花びらの赤が、処女の流す血のように動線上に吹き溜まりました。
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