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沖「夕暮れの時間、またこの小路においで」
傘の下の切れ長の瞳が笑う。
沖「みぃ」
柔らかく名をなぞる声に、胸の中、カッと熱を持って何かが弾けた。
真「っ!」
長い黒髪を翻すあたしは、逃げるように駆けだす。
沖「不逞浪士に気をつけて~」
無気力な声が背後から響くけど、今度は振り返らずに小路を飛びだした。
くすぐったいみたいな、生暖かさ。
振り切ろうと、知らない道をあたしは無我夢中で、駆け抜ける。
いままで抱いたことのないような正体不明な感情が胸を占める。
変なヤツ、変なヤツ。
心の中、繰り返してるはずなのに
さっきから柔らかい笑顔、胸のど真ん中に居座って、離れない。
――人なんて、笑顔を貼りつけて
その裏側、違うこと考えてる生き物だってこと、知ってる。
それなのに・・・
真「―――っ!」
乱されたままの心、携えて。
右も左もわからない街を、行き道同様走り抜ける。
はじめての街。
降り立った、一日目の雨降りの見知らぬ小路。
それが――“飼い主”と“捨て猫”の出逢いだった。
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