捨て猫、一匹

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――――・・・ ――――・・・・・ ――――・・・・・・・ 適当に歩いてたどり着いたはずの小路だった。 だけど、天性の方向感覚か、はたまた野生の勘か。 もう1度めちゃくちゃに道を選んだ末、数分後。あたしはきちんと“目的地”の前に立っていた。 真「・・・・」 白い壁に青い瓦屋根の綺麗な建物を見上げたとき、さっきまでの雨は上がっていて。 不自然にびしょ濡れのあたしは知らない街の中で、ひとりきり。 たっぷり数秒後。 躊躇ってその場に立ちつくしてから、戸にそっと手をかけた。 戸をゆっくり横に引いて、中の玄関から橙色の光が溢れだす、その瞬間。 真「―――」 ――ふとした、惑い。 口にすべきは“ただいま”か・・・・・それとも。 迷って思わず固まるあたしの元、奥から顔を出した人物が、驚いた様子で駆けよってくる。 「真白ちゃん!大丈夫!?」 真「あっ、おばさん・・・・」 おばさんが、玄関で立ち往生するあたしの腕を掴む。 雨でびちゃびちゃになったあたしの前髪をかき上げながら、彼女は深くその眉をよせた。 「なかなか帰ってこうへんから、心配してたんよ?」 真「・・・・・ごめんなさい」 「ちょっと散歩言うて出かけて、一体どこまで・・・・・あぁもう、こない濡らして」 「昴はーん!手拭ー!」耳をつんざくような声量。 家中に響いた声に、奥からバタバタと廊下を駆けてくる音。 顔をあげると、そこにはおばさん同様心配顔のおじさんの顔。 「大丈夫?真白ちゃん」 真「すいません・・・・・初日から迷惑かけて」 濡れたままのあたしの頭。 手拭をそっと乗せてくれるおじさんは心配そうに顔をのぞきこんでくる。 ・・・・・優しい人だって、わかる。 それが苦しくて、あたしは静かに瞳を逸らした。
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