捨て猫、一匹

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父がいなくなってから、母はあっという間に次の男を何人も作った。 もともと家事をする献身的な妻ではなかったけれど、それからは夜遊び、外泊、当たり前。 家で彼女の帰りを待つあたしを、ことごとく放置し続けた。 それでも当時まだ幼かったあたしは、変わってしまった母を信じて、必死に我慢を繰り返していた。 ――だけど、ある日。 そんな毎日に、あっけなくピリオドが打たれた。 朝起きたとき。 お金や、家にある金目のものをすべて持ち去って姿を消したきり、母親は二度とあたしの前に姿を現さなかった。 ・・・・・捨てられたのだ。 幼い頭でもそれを理解するまでに、時間は要さなかった。 両親と、お金。それから、生活する術。 子供だったあたしは何もかもを同時に失った。 親戚中はあたしに同情の眼差しを向けてくれて、引き取ると手を上げてくれた人だっていた。 ・・・・・この家も実際その中のひとつなのだけれど。 あたしはしょせん、家族ではない。いわば、部外者。 何か問題があったとき、一番に切り離されるのはいつだってあたしで、親戚中をあちこちと巡ってここへたどり着いた。 ・・・・・問題があったとき、というよりそもそも、最初から切り取られているんだ。 “あの女”と同じ血を持つあたしを笑顔の裏側。 みんなが蔑んでいること、知っているから。 真「―――」 胸の奥にふてよぎった影を振り切るように顔を上げる。 雲の裏側、ぽつりと浮かぶ、満月の影。 ぼんやり見上げてあたしは布団に腰かけたまま瞳を閉ざした。 夜が更けていく。 ―――眠れない捨て猫を絡め取ったまま、濃く深く。 下ろしたまぶたの裏側。 満月の丸い残像と、飼い主だと名乗った、不思議な男の笑顔。 闇の中に、ぽつりと浮かんで消えていった。
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