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?「・・・・何してるの?」
塞がれたはずの世界の中、ふと声が、雨に混じる。
・・・・・柔らかい声だった。
真「っ!」
勢いよくひらいた瞳。
ぐっと力をこめた眼差しで、あたしは反射的に顔を上げる。
雨降りの小路。
その中央に立ちつくすのは、あたし。
―――それから、知らない男がひとり。
?「見ない顔だね。このへんの子?」
雨の中。傘を片手に彼はじりっと迫ってくる。
それに合わせて、あたしは一歩あとずさり。
警戒した瞳を目一杯ひらいたままじっと固まるあたしに、彼はクッと喉を鳴らして笑った。
?「・・・・・そんな目しなくて、大丈夫」
すっとまっすぐに伸びたまつげが、色素の薄い前髪の向こうで、静かにふるえた。
?「怖くないから、こっちにおいで」
・・・・・綺麗な顔をして、ふわりとした雰囲気の、不思議な人。
真「――――あなた、誰?」
生まれて初めて降り立った、見知らぬ土地。
あたしを知る人がいないのもまた、同様で。
その上ひとりきり、静かな小路で雨に濡れているあたしは怪しいヤツだという自覚も、心のどこかにあって。
“どうしてあたしに声なんか?”
喉まで出かかったそんな疑問。
押し戻したのは、彼の笑顔。
?「・・・・・ご主人様、かな」
真「は?」
綺麗なみどり。透き通る翠色の瞳を細めた彼は、眉を下げて愉しそうに笑うだけ。
警戒の色を強めた目線を送ると、彼はクスクス肩を揺らしながら、一歩あたしへ歩みよる。
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