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?「だって、君・・・・・捨て猫みたいな目してるんだもん」
硬直した、びしょ濡れのあたしの身体。
そっと傘に招いて、繰り返す。
?「おいで」
笑う彼の顔があまりにも優しくて・・・・・胸が熱くなる。
驚いたあたしは掴まれた手をとっさに振り払う。
真「っ!」
ジロリと一瞬、目の前の彼を睨むあたしにも、彼は淀みのない瞳で笑うだけ。
まるで逃げるみたいに顔をそむけると、そのまま傘を飛びだし、雨降りの世界へと舞い戻る。
くるりと背を向け走り去るあたしを、彼の声が追いかける。
?「大丈夫?帰れるの?」
真「・・・・帰る家くらい、ある。捨て猫じゃないから」
足を止めて、鋭く放った言葉に。
瞳をくるりとまるめた彼は
?「道わかるかって聞いたの。このへんの子じゃないでしょ、君」
そう呟いて、ふわりと微笑んだ。
・・・・・まただ。
また胸が、熱くなる。
?「引っ越してきたばっかりとか、違う?」
真「・・・・・・違う」
?「いーや、違わない。君を見るのははじめてだから」
平然とそんなことを言ってのける彼に、呆れたあたしはぐっと目を細める。
・・・・・このへん一帯に住む人間。全員の顔を覚えてるヤツなんて、どこにいる?
小路の出入口。
足を止めたままのあたしに彼は自信に満ちた瞳を輝かせた。
?「ここ、僕の散歩道」
真「・・・・・帰る」
呆れ顔のまま静かに呟いて、踵を返すびしょ濡れのあたし。
向けた背中。得体の知れない男の鋭い声が、刺さる。
?「君、名前は?」
明るいトーンのその声に「は?」思わず眉間にしわをよせる。
だけど、彼は一点の曇りすら持たず、笑うだけ。
?「は?じゃなくて。名前教えてって言ったの」
あまりにも透き通ったその笑顔に胸が熱くなるのを感じる。
変な人。
不思議な人。
でも・・・・・どこか温かい人。
そう思った。だけど・・・
真「・・・・・・やだ、言わない」
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