捨て猫、一匹

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?「“やだ”禁止!言うまで帰さない」 真「はぁ?」 初対面のあたしに、彼は傘を握ったまま、ツカツカ歩みよってくる。 距離にして、数メートル。 数歩であっという間にその距離を詰めた彼。 腕をしっかりと掴んであたしを見下ろしたまま、繰り返す。 ?「お名前は?」 至近距離で柔らかく笑うその目に、不覚にもトクンと心臓が跳ねた。 こんな人に何、翻弄されてるの。 心のどこかで理性的な自分が囁く。 なのに・・・・・。 真「・・・・・・・・真白」 ?「ん?」 こんな変なヤツ適当に答えてあしらえばいいのに 真「っ、美月 真白!」 ――――正直に本名を語る自分。呆れてしまう。 乱暴に言い放って、掴まれた腕を振り払う。 そのまま身体の向きを変え小路を飛びだそうとするあたしに。 ?「じゃあ・・・・・みぃ!」 背後から彼が不可解な名を口にする。 驚いてふたたび足を止めるあたしに 「名前は、みぃ」彼はゆったりと笑った。 ?「今日から君は僕の猫、決定」 真「・・・・・頭、大丈夫?」 自然と怪訝な目を向けるあたしをひらりとかわして彼は笑う。 綺麗な笑顔。 あたしの目には眩しくて、思わず細めた瞳をぐっと逸らした。 ?「―――――僕の名前は、沖田 総司」 黙りこむあたしにかまわず彼は愉しそうに歯をのぞかせる。 雨空の灰色に煙るよう、かすんだ世界に、彼の綺麗な白い肌がよく映えた。
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