夏のある日の物語

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蝉の鳴き声が鳴り響き、暑い日差しが降り注ぐ。私はバス停のベンチに座っていた。いまだに迷ったままだ。所持金はない。当然のことだけど、バスには乗れない。バスにはギューギューと人が詰め込まれ、時には吐き出し、どこかに連れて行く。 「家族というやつですか」 最後に見たのは、四人の家族連れだった。誰もが楽しそうにニコニコと笑っていた。楽しそうにである。 私は上手く笑えてる? 頬を触ってみてもとにかく微妙だった。口元を動かしてみてもぎこちなく動くだけ、笑えていない。 『人はね。意識的に笑えないらしいよ、無意識だからこそ笑えるらしいだってさ』 誰かの言葉だった。何かしらの知識で、何かしらの見聞だ。でも…… 『死ねばいいのに』これは、母の言葉。 『消えればいいのに』これは、父の言葉。 私の家族と呼べる人達はいつのまにかこんなことしか言わない。もちろん、ニコニコ笑顔なんてなくて、石像みたいに固まったままだ。固まったまま、死ねばいいのに、消えればいいの言う。 「なら、どうやって死ねばいいのだろう? どうやって消えればいいのだろう?」 そのことを、初めていわれた時、単純にそう思った。母は私にどう死んでほしいのか、父は私どうやって消えほしいのか。私にはわからないから聞いた。 『どうやって、死ねばいいのですか? どうやって、消えればいいのですか?』 きっと、両親の望むような死に方、消え方があるはずなんだけれど、答えてはくれなかった。私の中に『わからない』が積もっていく。 わからないから、わからなくて、わかりたくても、わからない。 だから、この世界に問いかけても、答えが返ってはこない。
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