咲良-さくら-

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楓が結婚してるってことは、知ってたんだ。彼の指には、シンプルなデザインの指輪が体の一部のようにはまっていたから。 楓とどうにかなろうって思ってたわけじゃない。 そんなこと、思えるはずないじゃない。この恋はタブーが多すぎる。 私の思いは、抑えきれず溢れだしていたけど、楓は上手に知らない振りをしてくれていた。だから、私は安心して楓を好きでいられた。 恋愛ごっこだったんだ。誰も傷つかない優しいお遊び。きつい部分をすっ飛ばして恋愛ごっこに酔っていた私は、ズルくて、怖がりで、意気地無しだったと思うよ。 でもね、楓もそうだったよね。 楓は、すごく寒い場所にいたから、寂しがりで、いたがりで。 二人とも、酷く寒い場所に一人で立っていたから。自分自身を労るように、お互いに優しく優しく接した。 確かに、恋愛ごっこだ。優しいだけのお遊び。 でもね、それは間違った関係じゃないって、今でも思ってるよ。私たちには、それが必要だったんだ。
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