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楓は、自重するように薄く笑った。
「オレは、待ってなきゃいけないんだ。美羽の事故はオレのせいだから。」
楓と彼の奥さんとの間に何があったのかは全然わからない。でも、楓は大きな傷を負っていて、普段は見えないように隠されているその傷跡が、今は無防備にさらけ出されていた。
私は楓の手に触れた。それは酷く冷たくなっていて、微かに震えていた。私は、暖めるように両手で包み込んだ。彼の傷がこれ以上広がってしまわないように。
「先生…。」
何か言わなければと思った。でも、何も言えなくて。ただ涙が溢れた。楓が困るのはわかっていたけど、とまらなかった。
楓は少し戸惑ったように、空いている方の手で私の髪を撫でた。いつもとおんなじ。子どもをあやすような仕草で。
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