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楓の体は、何かを堪えるように微かに震えていた。私はどうすることもできず、ただ彼の腕の中にいた。
楓を抱き締めたかった。ジャケット越しなんかじゃなくて、直接触れて暖めたいって思った。でも、動くことができなかった。ほんの少しでも動いてしまったら、壊れてしまう気がしたんだ。これは、幻みたいなものだから。現実じゃない。一瞬の夢なんだ。夢になんてしたくないのに、現実に引き戻して拒まれるのが恐かったんだ。
楓は私に巻きつけた腕をそっと離した。そして、私に被せていたジャケットを取り、戸惑ったような表情で私を見た。
「…込山…?」
楓は心配そうな表情で私の頬にそっと触れた。
私の目から涙が溢れていた。とめどなく。自分でもコントロールできないほどに。
「…あ…れ…?
…ごめ…なさい…。ど…したん…だろ…。」
自制がきかない。泣きたくなんかないのに、とまらなくて。
楓は私から手を離し、ギュっと指を握りこむ。
「ごめん…。オレのせい…だな。」
私は頭を振って否定した。違う。楓のせいなんかじゃない。感情がぐちゃぐちゃで上手く伝えられなくて…。ただ、触れたかった。布越しなんかじゃなくて、直接触れて夢なんかじゃないって、夢で終わらせたくないって、伝えたかった。
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