咲良-さくら-

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楓は、再び私の頭の上からジャケットを被せ、ジャケット越しに唇を重ねた。 永いようで短い一瞬。直接触れられるよりもずっと、私の心を縛った。 「…ズルいよ。」 楓はクスリと笑った。 「大人はズルいもんだよ。 咲良。愛してる。 だからさ、幸せになってよ。 オレが変な気おこさないようにさ。」 楓は、もう一度軽く私を抱き締めて 教室から出ていった。 そのまま少しぼんやりしていたら、同じクラスの宮本君がやって来た。 何か困ったように、入口から私を見ている。 「どうしたの?こんな時間に。 美術室に用事?」 彼は、困ったように頭を掻いた。 「生徒会の用事で遅くなってさ。 さっき職員室に鍵返しにいったら、広瀬が込山を送ってやれって。 何か手伝わせて遅くなったからって言ってさ。」 涙が出そうになって必死でこらえた。 楓との約束は守らなければならない。今の二人を繋ぐ唯一のものだと思うから。
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