咲良-さくら-

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私は歩き出さなければならない。 例え、見るだけでもう二度と触れることができなくても。 その二ヶ月後、楓は突然学校を辞めた。以前から一学期までで辞めることを打診していたようだ。 私は、楓のことを何も知らなかった。住んでいる場所も、携帯の番号も。 職員室で無理矢理聞き出した住所を訪ねてみた。でも、既に引っ越した後で…。 諦めようと思ってた。ちゃんと歩きだそうって、思ってた。 でも、こんな風に失うなんて…。顔を見ることさえできなくなるなんて思わなかった。 あの日から毎日この場所に来ている。一人きりの時間を埋めるために。 海に浮かぶ月は、楓のようだ。 すぐそこにあるのに触れられない。 ジャケット越しのキスみたいだね。 そんなことを、考えた。
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