咲良-さくら-

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男の人だった。おそらく二十歳前後の人形の様に整った顔をした人だ。 彼は、両手でやっと抱えきれる程の大きな真っ白の花束を持っていた。 彼は、私の存在には気づいていないようだ。この季節のこの時間に人がいるなんて思っていないだろうし、私は比較的薄暗い隅の方のベンチにいたから。 彼は公園をまっすぐ横切って、海に面した柵のところまで行った。そして、1m程の柵をゆっくりと跨ぎ越した。 一瞬、飛び込むのではと思った。でも、彼の足取りは揺るぎなかったし花束を抱えて飛び込む人もいないだろうと思い、そのまま見ていた。 彼は、柵に腰を下ろし、まっすぐ海を見つめていた。私は、彼の10m程の斜め後ろにいたから、微かに彼の表情が見えていた。 彼は、涙を流していた。声を出さず、静かに泣いていた。 それは、胸を衝かれるような苦しい泣き方だった。まるで、大切なものを失って途方に暮れてるような。自分と重ねただけかもしれないけど、私にはそう思えた。 彼は、大切なものを失ったのだ。
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