咲良-さくら-

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ここにいると、心が静かになる。 思い出に耽る場所。 思い出に囚われる場所。 海辺にあるこの小さな公園は、春から夏にかけては込み合っているけど、夏を過ぎると途端に人気がなくなる。 空にはまあるい月がポッカリと浮かんでいて、静かな波間に漂っている。 一人きりの空間。私の大切な時間。 ピピピピピピピピ…ピピピピピピピピ……… 唐突に響き渡る電子音。 私は制服のポケットから携帯を取りだし、アラームを止め、立ち上がった。 ここから家までは、自転車で15分くらいだ。 私の日課。 楓を失ってから毎日続いている、私の日常。 明日も、ちゃんと笑わなきゃいけない。何もなかったように。あなたが望んだように。 「…約束、守ってるよ……。」 自転車を漕いで家に帰る。灯りのついていない家に。 たった一人で……。
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