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あの日は、駅前の大型書店で立ち読みをしていた。無目的に街をうろうろしていると、補導されかけたり、ナンパされたりと何かと面倒が多いので、その書店はよく利用していた。
ちょっと気になっていた著者の新刊が並んでいて、夢中になってページをめくっていたら、後ろから唐突に肩を捕まれた。
「…込山さん!?」
美術部の顧問の広瀬楓(ひろせ・かえで)が驚いたような顔でそこに立っていた。時刻は21:30を回ろうとしていた。夢中になって読みすぎてしまったようだ。
「わっっ!!…楓先生っ!」
彼は、背が高くて優しげな風貌と物腰が、名前の雰囲気と合っているせいか、単に男性には珍しい名前のせいか、多くの生徒から下の名前で呼ばれていた。
楓は、呆れたような顔でため息をついた。
「わっ!じゃないだろー。
何やってんの?こんな時間まで。」
私は、手に持っていた本の背表紙を楓に見せるように掲げた。
「…夢中になっちゃいまして…。」
楓は興味深そうに、その本の表紙を眺めた。
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