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「へぇ。意外!
オレもそれ買いに来たんだけどさ。
何か、込山さんがその作家読むってスゴい意外。」
楓は面白そうに私をまじまじと見つめた。
その作家は、心の微妙な揺らぎを静かな文体で淡々と描く作風で、17才の女子高生が好んで読むようなタイプの作品ではなかった。
私は怒ったように頬を膨らませた。
「それって、私が落ち着きとかしっとり感が足りないとかそう言うことですかー?」
楓は笑ってイヤイヤと言う風に手を動かした。
「そうじゃなくって。
いつも日向全開で、毎日楽しいって感じたからさ。その作家、結構テンション低いだろ?」
楓は、面白そうに私の顔を覗き込んだ。
28才という実年齢よりも童顔なその顔は、学校の中で見るよりもなんだか幼くて、教師という感じがしなかった。
「私だって思い悩んだりすることだってあるんですようっ。」
子供が拗ねたような言い方になってしまい、思わず心の中で舌打ちを打つ。
楓は「わかった、わかった。」と言うように私の頭を軽くポンッとたたいた。
「これ買ってくるからさ。ちょっと待ってて。」
そう言って、その本を手に取りレジに向かった。
わたしは、楓がいない隙に帰ってしまえと思いそそくさと出口へ向かおうとした。
その瞬間、楓は何かを察知したかの様に唐突に振り返って、厳めしい顔をつくった。
「勝手に帰ったらマジで説教だからな。大人しく待ってろよ。」
そう言い残して、レジへ向かって歩いて行った。
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