【シーン3】

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 エリザベスとフランクはハイチに来ていた。  プロポーズ後初の旅行だ。  新婚旅行で来てもよかったのだが、2人とも待ちきれず、真夏のこの日を選んだ。  ハイチの正式名称は『ハイチ共和国』。  中米にある孤島で、古くからブードゥー教が栄えている国だ。  ブードゥー教とは、ブードゥーという精霊を祀る宗教であり、いわゆる神教だ。  この宗教には、ボコといわれるネクロマンサーがいる。  宗教的には水先案内人を担っているが、現実における彼らは単なる墓守である。  ボコという職業には良いボコと悪いボコがいる。  良いボコとは単なる墓守だ。  悪いボコとは、死体を墓から掘り起し、ゾンビ奴隷として金儲けする者のことだ。  元々は罪人の死体だけを相手にしていたのだが、それだけでは数が足りなくなり、一般の死体にも手を出していたという歴史がある。  近年では、一般の死体に手を出すことは悪とされているため、悪いボコは少なくなったといわれている。  このような神秘的な点もあり、2人は旅行に胸を躍らせたわけだ。  憧れのハイチに降り立った2人は、ホテルを目指した。  時刻は15:00。  この辺りは日没後とても暗くなるという噂を耳にしていたためだ。  それに、長いフライトで体が疲れていた。  観光地でもある首都ポルトープランスは、ハイチ唯一の観光名所といっても過言ではない。  なぜなら、近年のハイチは治安が悪化の一途をたどっており、危険すぎるからだ。  また、現地のハイチ語およびフランス語程度しか普及しておらず、英語が通じにくいというのも理由の1つだ。  言葉が通じない治安の悪い地域にあえて踏み込むような観光客はそうそういない。  それに、合衆国に比べてここは何もない。  ケータイは持ってきているが、電波がつながることなど、滅多にない。  エリザベスもフランクもひさしくケータイのない生活から離れていたため、この点については不安を拭いきれなかった。  ホテルで1時間ほどくつろいだ2人は、景色を見に外へ出た。  道は多くの黒人で埋め尽くされていた。  自由の国から来た2人だが、圧迫感を感じずにはいられなかった。  また、暑いせいか、若干息苦しいとも思った。
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