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柱にくくられた女性はすでに足が焼け爛れて赤くなっていた。
群衆の間から1人の人間が炎のもとへ飛び出してきた。
下半身は裾長のトランクス姿、上半身は裸だが、粉のようなものをつけており、白い。
胸板だけでなく、肩も肩甲骨のあたりも白い。
腹と背面の腰のあたりは塗りたくられておらず、肌が露出している。
私はつい最近ボコの名を受け、周囲からは『聖なるボコ』と呼ばれているが、本名はラシャド・バティストだ。
観光局に努めている職業柄、ハイチの風土やブードゥー教の良さを観光客へ広めることを目的にボコへ志願したのだ。
そして、今年のバンダの担当になった。
バンダとは、ブードゥー教に古くから伝わる祭であり、死者や霊魂を体に憑依させ、1年の感謝を伝える儀式だ。
バンダの開催時期は1年の締めくくりである12月だが、私は本日練習をしにこの道何十年の師匠のところへ習いに来ていた。
一通りの型を覚えたころだった。
女性が広場で火あぶりになっていると助けを求める連絡が入った。
すぐに駆け出して行ったのだが、人だかりの外側から見ても大きな炎とけたたましい煙が出ているのがわかった。
「っざけんな!」
思わず叫んで、走っていた。
人だかりをかき分けて火元へたどり着き、女性の姿を見た時、私は愕然とした。
そこにいたのは・・・
「ガブリエル!」
私の婚約者であるガブリエル・ベネだった。
「誰だ、誰がこんなことを・・・」
私はガブリエルの腕と脚を柱から解き、炎の中から救出した。
そして、周囲を見回した。
「犯人、出てこい! それとも、お前ら全員が共犯か?」
誰も名乗り出ない。
それどころか、野次が飛んでいる。
いったい何が起こっているのか、私は理解できないでいた。
「この2人だ」
筋肉隆々の大男が運んできたのは、2名の外国人だった。
男女のパーティだ。
所持していたパスポートを見ると、男の方は『フランク・リード』、女の方は『エリザベス・クラーク』という名前らしいことがわかった。
普通の旅行者のように見えるが・・・
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