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大男はうなずいた。
その様子を見たラシャドは2人に指示を出した。
「にわかには信じられないが、今のところ有力な情報がない。2人を例の牢へ閉じ込めておいてくれ」
ラシャドは腑に落ちなかった。
とりあえずひっとらえたが、どう見てもあの2人はただの観光客であり、何かの組織に通じているとは思えないのだ。
その証拠に、彼らの装備は非常に簡素なものであり、それこそ、見つかった時にうまく逃げられるような武器もなければ、通信で使用するハンドレシーバーもなかった。
フランクという男のポケットにはZIPPOライターが入っていたものの、あれは単にタバコを吸うためだろう。
それに、ライターで火をつけるにはかなり時間がかかるだろうし、その間に人だかりができてもおかしくなく、自分たち観光局の人間や警察の職員がかけつけるだろうということを考慮すると、現実的な方法ではない。だとすると、誰が・・・
「ラシャド、そろそろ時間だ。支度をしろ」
カールがラシャドを呼びに来た。
外はすでに真っ暗であり、予定通り着火されたたき火の灯りが辺りを煌々と照らしていた。
そのたき火を囲うように、太鼓などの民族楽器をたたいている町人が集まっていた。
ドンドコドンドコという太鼓のリズムに合わせ、ボコの衣装に着替えたラシャドがたき火の近くに現れ、踊りだした。
タップダンスのような軽快なステップで火の周りをぐるぐると回り、言葉にならない甲高い音を口から出力している。
「今年も良い踊りが見られそうですねぇ」
フリージャーナリストのダニエル・スタンレーがカールに話しかけた。
「まぁ、ラシャドは正式な血統のボコですからね。今や絶滅の危機に瀕しているボコは、その存在だけでも貴重です」
カールはいつも通りの返しをした。
「ところで、例の件について詳しく話をしたいのですが・・・」
ダニエルはおもむろに本題を切り出した。
「スタンレーさん、ここでは人が多すぎる。観光局でじっくりお話をしましょう」
カールは観光局へ手の先を向け、ダニエルへ移動を促した。
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