【シーン2】

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 この光景、テレビで見たことがある。  そうだ、先週末のドキュメンタリー番組の1シーンだ。  悪魔に取りつかれた少女がベッドの上で発狂するシーンだ。  乗り移ったのが高位の悪魔であれば、発するそのボイスだけで人間を吹き飛ばす力がある。  1度取りつかれた人間は生気を吸い取られ、日を追うごとに目の下のクマが大きくなり、顔色が悪くなり、やがて死ぬ。  死んでしまう理由は様々あるが、ある者は衰弱、またある者は魔界へ連れていかれるという。  後者のケースは厳密には死ぬということとは若干異なるが、2度とこちらの世界に戻ってこられない(人間として戻ってこられない)という点では、死ぬということと同義であると思う。  つまり、終わりなのだ。  俺は今、そんな光景を目の前で見ている。  いや、正確には『見ていた』だ。  気が付くと、そこはベッドの上だった。  窓からは朝日が差し込んでおり、瞼を開くのが億劫だった。  若干体に痛みを感じるものの、それほどダメージは残っていないようだった。  俺は時間をかけてゆっくり起き上がり、1階への階段を降りた。  「あら、起きたの?」  彼女はキッチンで朝食の準備をしていた。  既にダイニングテーブルにはいくつかの皿が並べられており、軽めの料理がのっている。  そこから流れてくる香りで、空腹であることに気づいた。  「昨夜・・・」  俺はためらった。  昨夜のことを尋ねて大丈夫だろうか。  彼女が覚えている可能性は限りなく低いので尋ねても期待しているレベルの回答があるとは思いえない。  いや、そんなことは問題ではない。  俺がその事実を覚えていることがバレた時、再び悪魔が彼女の体を乗っ取るの画はないかということが問題だ。  次は殺される可能性が高い。  それも、残忍な方法で殺されるだろう。  悪魔は人間の苦しむ様を見て楽しむらしい。  そのような噂しか聞かない。  悪魔というのがここまで怖いということを今初めて認識した。  これまでは、その存在を否定こそしてはいなかったが、自分の環境には無関係なものだと考えていた。  しかし、目の当たりにした現時点での思いは、これまで寄付をしてこなければお祈りや懺悔、説教にすら訪れなかった教会に、今すぐにでも転がり込みたいというものだ。
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